『鬼滅の刃』無限列車編、夢へ誘う鬼の声優は?
劇場版が歴史的な大ヒットを記録し、日本中を感動の渦に巻き込んだ『鬼滅の刃』無限列車編。炎柱・煉獄杏寿郎(れんごく きょうじゅろう)の活躍はもちろんですが、物語前半で炭治郎たちを極限まで追い詰めた、もう一体の鬼の存在を忘れることはできません。丁寧な口調で乗客を悪夢へと誘い、人の不幸を心から楽しむ鬼。その名は魘夢(えんむ)。この一度聴いたら忘れられない、ねっとりとした不気味な声の主は、一体誰だったのでしょうか。
下弦の壱・魘夢(えんむ)を演じるのは実力派・平川大輔
鬼舞辻無惨(きぶつじ むざん)によって下弦の鬼が解体される中、唯一その異常性を気に入られ、さらなる力を与えられた下弦の壱・魘夢。この無限列車編の主敵の声を担当しているのは、声優界で長年にわたり多彩な役を演じ続けてきた、実力派の平川大輔(ひらかわ だいすけ)です。彼の卓越した演技力は、魘夢の持つ慇懃無礼(いんぎんぶれい)な態度と、その裏に隠されたサディスティックな本性を見事に表現しきっていました。
平川大輔はどんな声優?優しい役から狂気の役まで
平川大輔は、その柔らかく落ち着いた声質で、優しい青年や知的なキャラクターを数多く演じてきました。代表作には『Free!』の竜ヶ崎怜役や、『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』の花京院典明役などがあります。その一方で、今回の魘夢のように、狂気を秘めた悪役を演じる際の振り切った演技にも定評があります。この優しい声と狂気の演技のギャップこそが、平川大輔という声優の持つ大きな魅力であり、魘夢というキャラクターに底知れない深みを与えたのです。
そもそも魘夢とはどんなキャラクター?歪んだ忠誠心
魘夢は、下弦の鬼の中で最も位の高い「壱」の鬼です。他の下弦の鬼たちが無惨のパワハラに恐怖する中、彼だけは自分を殺してくれることにすら恍惚の表情を浮かべ、その歪んだ忠誠心を示しました。その結果、無惨から直々に血を分け与えられ、十二鬼月に匹敵する力を得ます。性格は極めてサディスティックで、人間の不幸や苦しむ姿を見ることを至上の喜びとしています。常に物腰の柔らかい丁寧な口調で話しますが、その言葉の端々からは狂気がにじみ出ています。
魘夢の能力と血鬼術「強制昏倒催眠の囁き」
魘夢の血鬼術は、人間の夢を自在に操る、非常に厄介な能力です。彼の「お眠り」という囁きを聞いた者は、抗う間もなく深い眠りに落ちてしまいます。彼は、まず相手に幸福な夢を見させ、その無防備な状態で、協力者である人間に精神の核を破壊させるという残忍な手口を使います。また、自身の血を混ぜたインクで切符を切ることで、切符を改札された乗客全員を眠らせることも可能です。物理的な強さだけでなく、精神を蝕む陰湿な攻撃を得意としています。
平川大輔の真骨頂!魘夢のねっとりとした喋りと恍惚の表現
平川大輔の演技は、魘夢の異常なキャラクター性を完璧に表現していました。ゆっくりと、ねっとりと語りかけるような独特の喋り方。相手が苦しむ様を想像して、恍惚としたため息を漏らす芝居。そのどれもが、聞いているだけで不安と不快感を掻き立てる、見事なものでした。「良い夢を」というセリフ一つをとっても、そこには相手をいたぶるサディスティックな喜びが満ち溢れています。この平川大輔の怪演があったからこそ、魘夢はただの敵役ではなく、無限列車編を象徴する忘れられないキャラクターになったのです。
なぜ魘夢役に平川大輔がキャスティングされたのか?
魘夢は、力任せに襲いかかってくるタイプの鬼とは一線を画します。彼の本質は、じわじわと相手の精神を追い詰めていく陰湿さと、無惨への倒錯した忠誠心にあります。このような複雑で歪んだキャラクターを演じるには、声に色気と狂気、そして知性を感じさせる高度な表現力が不可欠です。平川大輔は、その全てを兼ね備えた稀有な声優です。制作陣が、この劇場版という大舞台の敵役を彼に託したのも、その卓越した演技力への絶対的な信頼があったからでしょう。
炎柱・煉獄杏寿郎との激闘!無限列車との融合と最後
物語の後半、炭治郎に追い詰められた魘夢は、奥の手として自身の肉体を巨大な無限列車そのものと融合させます。これにより、列車に乗っている乗客約二百人の命を人質に取り、鬼殺隊を絶望させようとしました。しかし、炎柱・煉獄杏寿郎の的確な指揮と、炭治郎、禰豆子、善逸、伊之助の決死の奮闘の前に計画は失敗。最後は、炭治郎と伊之助の連携によって列車の首の骨にあたる部分を斬られ、朝日を浴びながら、人間ごときに負けるという悪夢のような現実を嘆きながら消滅しました。
魘夢が見せた「幸せな夢」とは?彼の残忍な手口
魘夢の戦い方で最も残忍なのは、相手に「幸せな夢」を見せることです。炭治郎には、もう会えるはずのない亡き家族との温かい暮らしを。煉獄杏寿郎には、自分を認めてくれない父や、病弱な母、そして愛する弟との幸せな日々を。その幸福な世界に浸らせ、そこから引き剥がされた時の絶望を味わわせることに、彼は至上の喜びを感じるのです。人の心の一番弱い部分につけこむ、まさに鬼の所業と言えるでしょう。
平川大輔の怪演が光る!無限列車編を彩った魘夢の存在感
魘夢は、物語の最後には上弦の参・猗窩座(あかざ)にその座を譲る形となりましたが、彼の残したインパクトは絶大でした。それは間違いなく、魘夢というキャラクターに命を吹き込んだ、平川大輔の魂のこもった演技の賜物です。彼の声は、無限列車という閉鎖空間で繰り広げられる悪夢の恐怖を何倍にも増幅させました。『鬼滅の刃』という作品において、平川大輔が演じた魘夢は、最も美しく、最も不気味な悪夢として、ファンの記憶に永遠に刻み込まれています。