鬼滅の刃で死亡した6名の柱
鬼殺隊の最高位に君臨する「柱」。その名前は、まさに鬼殺隊を支える柱であることに由来します。柱になるためには、もっとも高い階級である「甲(きのえ)」に到達し、さらに鬼舞辻無惨(※1)の直属の配下である十二鬼月(※2)を倒すか、鬼を五十体倒すかのどちらかの条件を満たす必要があります。このことからも、柱がいかに卓越した実力を持つ剣士であるかがわかります。
しかし、鬼殺隊最強と謳われる柱であっても、上弦の鬼や鬼舞辻無惨との戦いは熾烈を極めました。その激闘の中で、多くの柱が尊い命を落としています。物語の最終決戦までに死亡してしまった柱は、炎柱、蟲柱、霞柱、岩柱、恋柱、蛇柱の六名です。それぞれが上弦の鬼、あるいは鬼の始祖である無惨との戦いで、壮絶な最期を遂げました。ここからは、戦いの中で散っていった六名の柱の最期について、詳しく解説していきます。物語の最終盤の内容を含みますので、未読の方はご注意ください。
(※1)鬼舞辻無惨(きぶつじ むざん): 千年以上前に最初の鬼となった存在であり、全ての鬼の始祖。人間社会に紛れ込み、十二鬼月と呼ばれる強力な鬼たちを配下に置いている。
(※2)十二鬼月(じゅうにきづき): 鬼舞辻無惨直属の十二体の強力な鬼。「上弦」と「下弦」の六体ずつに分かれており、特に上弦の鬼は柱三人がかりでも倒すのが困難と言われるほどの実力を持つ。
【炎柱】煉獄杏寿郎の壮絶な最期

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
柱の中で、物語の進行上、最初に命を落としたのは炎柱・煉獄杏寿郎でした。彼の最後の戦いの舞台は、無限列車です。乗客二百人を人質に取った下弦の壱・魘夢を、炭治郎たちと協力して見事に討伐します。しかし、安堵したのも束の間、そこに突如として現れたのが上弦の参・猗窩座でした。
杏寿郎は、猗窩座と壮絶な一騎打ちを繰り広げます。炎の呼吸の奥義である「玖ノ型・煉獄」を放ち、猗窩座を追い詰めます。しかし、その強力な技も猗窩座を倒すには至らず、逆にみぞおちを猗窩座の右腕に貫かれるという致命傷を負ってしまいました。絶体絶命の状況でも、杏寿郎の闘志は衰えません。最後の力を振り絞り、猗窩座の首を斬ろうと執念を燃やし続けます。
夜明けが近づき、太陽の光を恐れた猗窩座は逃亡を図ります。杏寿郎は逃すまいと必死に食い下がりますが、力及ばず、猗窩座を取り逃がしてしまいました。死を悟った杏寿郎は、駆け寄った炭治郎に、家族への遺言と、鬼殺隊の未来を担う後輩たちへの想いを託します。そして、薄れゆく意識の中、亡き母の幻影を見ます。母から労いの言葉をかけられた杏寿郎は、穏やかな笑顔を浮かべ、静かに眠りにつきました。
煉獄杏寿郎が炭治郎たちに託した「心を燃やせ」という想い

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杏寿郎は、猗窩座を討ち取ることはできませんでした。しかし、彼の戦いは決して無駄ではありませんでした。無限列車の乗客二百人と、大切な後輩である炭治郎、善逸、伊之助、そして禰豆子の命を、誰一人として失わせることなく守り抜いたのです。
「己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。歯を食いしばって前を向け」。
死の間際に杏寿郎が炭治郎に遺したこの言葉は、彼の死後も、炭治郎たちの心を支え続ける大きな道標となりました。特に炭治郎は、集中力を極限まで高め、己を奮い立たせる際に、この言葉を何度も心の中で反芻します。杏寿郎は、その命が尽きた後も、後輩たちの心の中で生き続け、道を照らし続けたのです。まさに、剣士の鑑と呼ぶにふさわしい存在でした。
【蟲柱】胡蝶しのぶの壮絶な最期

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二番目に命を落とした柱は、蟲柱・胡蝶しのぶです。彼女の最後の相手は、自身の最愛の姉・カナエの命を奪った因縁の鬼、上弦の弐・童磨でした。最終決戦の舞台である無限城で、ついにしのぶは仇敵と対峙します。
しのぶは、柱の中で唯一、鬼の頸を斬る膂力を持たない剣士でした。その代わり、藤の花から精製した強力な毒を仕込んだ日輪刀で鬼を滅殺します。彼女の持ち味は、蝶のように舞い、蜂のように刺す、驚異的なスピードと突きの精度です。その速さを生かし、何度も童磨の体に毒を打ち込みますが、童磨は驚異的な速さで毒を分解してしまいます。次第に追い詰められ、ついには立ち上がることすらできないほどの致命傷を負ってしまいます。しかし、亡き姉の激励を幻聴し、最後の気力を振り絞って再び立ち上がりました。
死闘の末、しのぶは童磨に捕らえられ、その体は吸収されてしまいました。これは一見、完全な敗北に見えました。しかし、これこそがしのぶが仕掛けた、命を賭した最後の策だったのです。
胡蝶しのぶが命を賭して実行した鬼を倒すための作戦
しのぶは、童磨が女性を好んで喰らう鬼であることを知っていました。その習性を逆手に取り、自らを童磨に喰わせることを前提とした、恐るべき作戦を立てていたのです。彼女は、上弦の鬼を確実に仕留めるため、一年以上も前から藤の花の毒を微量ずつ摂取し続けていました。
その結果、しのぶの体は、血液から内臓、爪の先に至るまで、全身が高濃度の藤の花の毒に満たされた「毒の塊」と化していたのです。その毒の量は、通常の鬼の致死量の実に七百倍にも達していました。しのぶを吸収した童磨は、しばらくして体の中から毒が回り、体が溶け始めるという弱体化を見せます。
しかし、しのぶはこの作戦だけでは上弦の鬼を完全に倒すことはできないと考えていました。そのため、妹分であり継子(※3)である栗花落カナヲに、弱体化した童磨の頸を斬るように後を託していたのです。しのぶの想いを受け継いだカナヲは、駆けつけた伊之助と協力し、見事に童磨の頸を斬り落とすことに成功しました。自らの命を犠牲にしてでも鬼を滅するという、しのぶの強い信念が勝利を手繰り寄せた瞬間でした。
(※3)継子(つぐこ): 柱が自らの後継者として直接育てる隊士のこと。高い才能を見込まれた者が選ばれる。
【霞柱】時透無一郎の壮絶な最期

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三番目に命を落としたのは、鬼殺隊史上最年少の柱である霞柱・時透無一郎です。刀を握ってわずか二ヶ月で柱になった天才剣士でした。無一郎は、無限城で上弦の壱・黒死牟と遭遇します。黒死牟は、かつて「始まりの呼吸」を使った剣士であり、無一郎の先祖にあたる人物でした。
無一郎は果敢に攻撃を仕掛けますが、黒死牟の圧倒的な強さの前に、なすすべもなく左腕を切断されてしまいます。さらに、自身の刀で壁に縫い付けられ、右胸を貫かれるという致命傷を負いました。絶望的な状況の中、風柱・不死川実弥と岩柱・悲鳴嶼行冥が駆けつけ、共闘が始まります。しかし、鬼殺隊最強クラスの柱二人が協力しても、黒死牟には一歩及びません。
左腕の切断と胸の傷による大量出血から、無一郎は自分の死を悟ります。しかし、彼の心は折れていませんでした。命を捨ててでも鬼を倒すため、最後の力を振り絞ります。そして、黒死牟の体に深々と刀を突き刺し、その動きを止めることに成功したのです。黒死牟の反撃を受け、胴を真っ二つに両断されても、無一郎は決して刀から手を離しませんでした。彼の命を賭した一撃が勝機を生み、駆けつけた実弥と行冥が、ついに黒死牟を倒すことに成功します。無一郎は、その役目を果たした後、静かに息を引き取りました。
時透無一郎が最年少の柱として見つけた「幸せ」
無一郎は、まだ十四歳という若さでした。壮絶な人生を送った彼は、死後の世界で、幼い頃に鬼に殺された双子の兄・有一郎と再会します。兄は「なぜ戦いから逃げなかった」「何のために生まれてきたのかわからないまま死ぬなんて」と無一郎を責めます。過去、有一郎は無一郎を守るために、冷たい言葉を投げかけていたのです。
しかし、無一郎は兄に対して、はっきりとこう言いました。「僕は、幸せになるために生まれてきたんだ」と。大切な家族を失い、記憶を失くしていた無一郎ですが、鬼殺隊で出会った仲間たち、特にお館様や炭治郎との出会いが、彼の閉ざされた心を開き、支えとなっていました。そんな大切な存在を守るために命を懸けて戦ったこと、それが無一郎にとっての幸せでした。無一郎という若き天才の尊い犠牲があったからこそ、最強の上弦の鬼である黒死牟を倒すことができたのです。
【岩柱】悲鳴嶼行冥の壮絶な最期

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四番目に命を落としたのは、鬼殺隊最強と誰もが認める岩柱・悲鳴嶼行冥です。彼は、無一郎や実弥と共に黒死牟を打ち破り、生き残りました。そして、他の生き残った仲間たちと共に、最終決戦の相手である鬼舞辻無惨との戦いに臨みます。
他の鬼とは比べ物にならない無惨の強さと、驚異的な再生能力の速さに、柱たちは苦戦を強いられます。なんとか活路を見出そうとしたその時、無惨の攻撃が伊之助を襲います。行冥は咄嗟に伊之助を庇い、左足を失うという重傷を負ってしまいました。一度は戦線を離脱しますが、鬼である珠世の協力者、愈史郎の治療によって応急処置を施され、片足の状態でありながら再び戦場に戻ります。
夜明けが迫り、太陽から逃げようとする無惨を、行冥は渾身の力で抑えつけます。彼の鉄球と斧が、無惨の体を地面に縫い付けました。そして、仲間たちの協力もあり、ついに無惨を太陽の光で滅することに成功します。戦いが終わった後、行冥の意識はまだありました。隠たちが彼を助けようと薬を使おうとしますが、行冥はそれを静かに制止します。「自分はもう助からない。薬は若い隊士たちに使ってやってくれ」と伝えました。そして、最期の瞬間、かつて自分が育て、鬼に襲われた子供たちの霊が迎えに来るのを見ます。行冥は、涙を流しながら、子供たちと共に静かに息を引き取りました。
かつて寺で身寄りのない子供たちと暮らしていた行冥ですが、鬼の襲撃事件が彼の人生を大きく変えました。子供たちは行冥を置いて逃げ出したと長年思い込み、人間不信に陥っていました。しかし、真実は違いました。子供たちは、目の見えない行冥を助けるために、助けを呼びに行こうとしていたのです。その真実を死の間際に知った行冥は、嬉しそうに微笑み、静かに涙を流しました。長年の心のわだかまりが解けた瞬間でした。
【恋柱・蛇柱】甘露寺蜜璃と伊黒小芭内の壮絶な最期

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五番目と六番目に命を落としたのは、恋柱・甘露寺蜜璃と蛇柱・伊黒小芭内です。二人の最期は、片時も離れることなく、共に訪れました。無惨の攻撃で炭治郎が窮地に陥った場面で、蜜璃と伊黒は颯爽と現れ、無惨との戦いが始まります。
蜜璃はしなやかな剣技で無惨の攻撃を受け流しますが、一瞬の隙を突かれ、顔の左半分を大きく削がれる重傷を負います。伊黒や他の柱によって救出されますが、体をうまく動かせず、一度戦線を離脱することになりました。その後、愈史郎の薬によってなんとか動けるようになり、再び戦いに戻ります。炭治郎が無惨の攻撃を受けそうになった瞬間、蜜璃は身を挺して炭治郎を守り、無惨の腕を力任せに引きちぎるという離れ業を見せました。しかし、その直後に無惨の反撃を受けてしまいます。

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同じく無惨との戦いで深手を負っていた伊黒も、最後まで戦い続けました。彼は、日輪刀を赤く染める「赫刀」を発現させ、一瞬だけですが相手の動きが透けて見える「透き通る世界」にも到達します。しかし、無惨の攻撃はあまりに熾烈で、炭治郎を庇った際に顔に深い傷を負い、視力をほとんど失ってしまいました。
無惨が滅んだ後、瀕死の二人は静かな場所で再会します。伊黒は傷だらけの蜜璃を優しく抱きかかえました。無惨が死んだことを確認し、伊黒に感謝を伝えられると、蜜璃は泣きながら自分の想いを打ち明けます。「もし生まれ変われたら、また人間として生まれ変われたら、私のことお嫁さんにしてくれる?」と。伊黒もまた、蜜璃への秘めた想いを伝え、来世で必ず結ばれることを誓い、二人は静かに息を引き取りました。
特異な髪の色や人並み外れた食欲と力のせいで、かつてお見合いが破談になった過去を持つ蜜璃。ありのままの自分を受け入れてくれる場所を求め、鬼殺隊に入隊しました。そんな彼女にとって、伊黒は特別な存在でした。靴下をプレゼントしてくれたり、食事の時に優しく見守ってくれたりする伊黒に、いつしか惹かれていたのです。
一方、伊黒もまた、お館様の屋敷で出会った蜜璃に一目惚れしていました。しかし、汚れた一族に生まれた自分の血を疎み、蜜璃に想いを伝える資格はないと思い込んでいたのです。最期の瞬間に、二人はようやく互いの想いを伝え合い、来世での幸せを誓い合うことができました。この時、二人の周りには誰もいませんでした。先に意識を取り戻した伊黒が、蜜璃との最期の時間を邪魔されぬよう、隠たちに頼んでいたのかもしれません。
壮絶な戦いを生き残った柱たち

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鬼舞辻無惨との最終決戦を経て、九人いた柱のうち、生き残ったのは水柱・富岡義勇と風柱・不死川実弥の二名だけでした。(元音柱の宇髄天元は遊郭での戦いで引退していましたが、最終決戦にも駆けつけ、生存しています)。彼らもまた、決して無傷ではありませんでしたが、なんとか一命を取り留めることができました。

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鬼舞辻無惨の討伐という、鬼殺隊の千年来の悲願は、ついに達成されました。しかし、その代償はあまりにも大きく、多くの尊い命が失われました。戦いで亡くなった六人の柱たち。彼らは、鬼のいない平和な世界を見ることはできませんでした。しかし、彼らの誰か一人でも欠けていたら、無惨を倒すという偉業は成し遂げられなかったでしょう。自分ではない誰かのために、未来のために命を懸けて戦った六人は、鬼殺隊の「柱」という名にふさわしい、誇り高き剣士たちでした。